フイゴ祭り

風音

2005年12月17日 14:36

年月(とし)ぬ走(は)いや 馬ぬ走(は)い

駆ける馬のように歳月は過ぎ、今は暖をとる火が恋しい12月の半ばになりました。
 その昔、旧暦11月15日、新暦でいうと、ちょうど12月の今頃、金細工や鍛冶屋では
フーチヌカミに花を活け、お茶をあげて祀るフイゴ祭りが行われました。



耳慣れない吹子・フイゴは一種の送風機で、またの名をフーチョーパンチョーとも呼ばれています。箱状の本体の前と後ろに小さな窓があり、風圧でパンチョパンチョとお伽噺のような音を出すので風変わりな名前がつけられました。全国でも5指の数もない珍しい貴重なものです。
これが、わが工房にも鎮座ましまして、まるで工房主みたいな存在感です。



目を射る黄金の炎、パチパチはぜる音、飛びかう火花。
昔の物の原型はその中から生まれたのでしょう。もう一度呼び戻したい熱と光です。
現在はガソリンバーナーを使っています。今週、県立博物館の学芸員の方が訪ねてみえました。
このフイゴがお目当てでした。新都心に新しい博物館の建設が予定されていて、
そこで、500年の歴史をもつ金細工の一端を復元したいご意向のようでした。
復元といえば、昔のフイゴ祭りもみたいものです。年の暮れで、寒い季節になると、金細工や鍛冶屋は火を抱くような仕事をしているので、この時期にフイゴ祭りが行われたようです。
その日は主人や職人達が集まって、まずカンカンカンと金床を、三回打つことから始まったといいます。なんとものどかなものです。でも、お供え膳料理はものすごいものです。ものの本によりますと、金槌などの道具と一緒に、口にツバキの葉をくわえさせた豚の頭をまるごとお供えしたといいますから。言葉ではいえない祭事への想い入れです。ところがフイゴの神様は女でありありながら女嫌いだったようです。はじめに女の客が来ると塩をまいてお払いしたと言います。
女を嫌うのは職人達が女を見ると心を乱し、よく焼けないまま金槌を打つので、いいものが出来ないというのがその理由でした。当工房ではこれは困ります。今は女性が身につける銀細工を作るのが仕事ですから、女嫌いの神様は困ります。昔ながらの婚礼指輪、房指輪を手にして、
『あぁ、沖縄に生まれてよかった』とおっしゃった女性の方がいて、私も『あぁ、金細工職人に生れてよかった』と感動したのが、つい先週のことだったのですから。


 ♪ 吹子(ふうち)ふち火花  顔にふち飛ばち

      芸ぬ奥ふかさ 道やあぐでぃ


77歳の時の父の琉歌です。



 ♪ 父親(うや)ぬ言葉(いくとば)や 銀(なんじゃ)色美(いろじゅ)らさ

      肝とめて我(わん)や  後に残さ



さて来週は・・・・・?

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