2012年01月30日

風と、火と、水と。

 あとふつかを残す1月の末になって、寒緋桜は満開。あたたかい沖縄です。

 でも、本土は違います。自然の力と人の営みの、圧倒的な違いが毎日のニュースで報じられています。

 今日は、暖を起こす、工房のフーチ(ふいご、吹子)についてお話ししようと思います。



風と、火と、水と。風と、火と、水と。



 間尺一間半の私の仕事場には、右手に父ゆずりの金槌(かなづち)、金床(かなどこ)、もんめ秤があり、左手にはご先祖(うやふぁーうじ)を象徴しているフイゴが、どっかと鎮座しています。


 戦前は正月の二日頃、ハチウクシー(初起こし・仕事初めのこと)としてフイゴ祭りが行われていました。

 フイゴ(沖縄語でフーチ、またはフーチヨー、パンチョー)の神様は女性で、だから女が大嫌い。女がそばに来ると、めらめらと嫉妬の炎を燃やし、それが火種になって火を起こしたとか。。笑


風と、火と、水と。風と、火と、水と。

 フイゴは、縦41㎝、横31㎝、高さ41㎝の箱状の送風機。カメラを内側に向けると、たぬきの皮で包まれた仕切りがみえます。取っ手で、それを押し、戻すことで空気を外に送りだし、火を起こす。シンプルな仕掛けで、ほとんど空っぽです、

 蓋の裏には六代目誠睦の琉歌。制作者、川畑照雄。制作1999年5月と、のちのちのために記録されています。

 この現存し機能する金細工用のコンパクトなフイゴは、私の知る限りでは、本土はもとより沖縄でも唯一のものかもしれません。王朝時代の、長い歴史の金属文化を語る貴重な存在です。


風と、火と、水と。



 この〈おもし〉は由来は不明ですが〈たぬき石〉と呼ばれていて、おもえばこの盤石の重みで〈時〉の流れに押し流されることなく、フイゴと金細工を支えてくれたのです。あっぱれです。

 フイゴについて、ひらたくまとめますと、大昔からの、銀のかんざし、結びの指輪、房の指輪ほか、金銀の細工物がいっぱい詰められている。今は昔の玉手箱なのです。


風と、火と、水と。


           風      火      水
 


 銀を溶かし、固め、熱し、冷やし、槌ち、延ばす。このくりかえしこそが父子相伝であり、代々に伝わる心技のリズムです。風を送り、火を起こし、水で冷やすことが金細工のおおもとの仕事であり、歴史的拠り所で、脈々と続けられてきたのです。
 
 ものの本によると「目に見えない気の動きを、目に見える風と水によって判断し、人の営みをととのえた」とのことです。


風と、火と、水と。


風と、火と、水と。





--------------------------------------------------------------------------------------------------



風と、火と、水と。



 昨年の暮れ。健次郎さんは新しい年にやりたいこととして、年始に、ふいごで火をおこすこと、をあげました。

 ふいごは、健次郎さんが銀を打つ、その背中の向こうの壁際に置かれています。形はほぼ直方体。九州の杉で造られているとのこと。
 バケツ2杯分ぐらいだったでしょうか、ふいごの前に設けられた常は使われることのないレンガ囲みのなかに、木炭を詰め足し、健次郎さんはいくらか時間をかけ、手を黒くしながらそれらを並べ、組みなおしました。
 そうして炭に火をつけ、側面から突きでている棒をぐっと押しこめると、ふいごのお腹の下にある、すぼめた口みたいな丸い筒から空気がおしだされ、重ね置かれた木炭のなかへと吹きでてきます。と、弱々しかった火に血がめぐり、あたたかに膨れあがり、小さな羽虫のごとく火の粉が舞い飛びました。
 この火のなかに、いつか健次郎さんの手によりジーファーになるであろう冷たい銀の棒を置き、ふたたびふいごを動かし空気を送り込むと、今度は火が、巣のように、これを包みこみました。その炎の、あたたかなこと、やわらかなこと。火にくるまれた銀は熱いはずだけれども、心地よさげにみえ。
 火のなかの銀をのぞきこむ健次郎さんは、打つときの厳しい表情とはべつの、赤ちゃんをとりあげる助産師のような気配。とりあげた熱せられた銀を、満々と水をはった壺にいれるとジュっと音をたて、白い蒸気がのぼりました。熱し冷まされたこの銀を打ち、形をうみだします。

 工房は地球。大気、火、水とともにあり、地球のかけらである鉱物から人が、用のものをつくりだします。

 あらたな年の始まりにふいごを動かし、この輪をまのあたりにし、清々しい心地です。

                                    月曜日の昼ご飯係り、はるか

~ 追伸 ~
 なお、このあと沖縄は首里にある工房中に舞い降った粉雪のような灰を、お弟子さんたちでせっせと掃除しました。その様子をみていた健次郎さんは、「むかしの工房は、外みたいなもんだったからな」と。来年は、ほっかむりをしようかな。


同じカテゴリー(父子相伝の道具)の記事
花一匁
花一匁(2006-02-18 12:46)

仕事初め
仕事初め(2006-01-07 14:57)

フイゴ祭り
フイゴ祭り(2005-12-17 14:36)

これ?ご存知ですか
これ?ご存知ですか(2005-06-14 17:28)


この記事へのコメント
又吉様

昨年つくって頂きました簪。
あれから毎日、結い髪に挿してます。
髪も伸び、簪だけで結うことができるようになりました。
仕事でも使用して生活に欠かせない、
大切な簪です。
持ち運ぶ時は母手製の大島紬で作成した簪袋に入れてます。

私の宝物です。
毎日身に着けられることが幸せです。

いつの日かジーファーもこの結い髪に挿せる日を楽しみにしています。
Posted by Seiko at 2012年04月07日 00:54
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。